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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页
か……」
「はあ、……そ、……はあ……」
「自分が見るところ、其の方にも悪意はないようじゃ、欲に眼の昏んだ愚か者の所為とみて遣わす、本来ならば奉行所へ達し、屹度申し付く可きところなれど、此の度は穏便にして取らせるから有難く心得ろ」
「はあ……、はあ……」
「但し金子七十両は十日を限り、其の方自身にて御邸へ持参するよう、十日期限七十両、万一にも相違あるときは、始終の事ただちに奉行所へ達するであろう、申し付けたぞ」
「あのもし、ちょいとお待ち下さい」おわきは、狼狽的にこう呼び止めた、「貴方はそれでいいでしょうけど、それでお役目は済んだでしょうけど、あたしはいったいどうしてお呉れなさいますか」
「――どうするとは、なんの事だ」
「あたしは唯のからだじゃありません、貴方だから云いますんだけど、あたしのお腹にはもう御落胤様の御落胤が入ってるんです、この片をつけずにいっちまうなんて、それじゃお侍様の責任は持てないじゃありませんか、帰るならあたしのこのお腹のきまりをつけていってお呉れなさいませ」
「よしよしいい事を教えてやる」武士は寛容に冷笑して云った、「その腹の始末がしたかったら雑作ない、いいか、今すぐにな、柳原へゆけ」