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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

宇野浩二の小説に『人癲癇』というのがありましたね。春泥は丁度あれですよ。寝胼胝が出来る程も、寝たっきりなんですからね。僕は二三度しか逢ってませんが、いつだって、あの男は寝ていて話をするんです。寝ていて食事をするというのも、あの調子なら本当ですよ。

ところが、妙ですね。そんな人嫌いで、しょっちゅう寝ている男が、時々変装なんかして浅草辺をぶらつくっていう噂ですからね。しかもそれが極って夜中なんですよ。本当に泥棒か蝙蝠みたいな男ですね。僕思うに、あの男は極端な恥しがり屋じゃないでしょうか。つまりあのブクブクした自分の身体なり顔なりを人に見せるのがいやなのではないでしょうか。文名が高まれば高まる程、あのみっともない肉体が、益々恥しくなって来る。そこで友達も作らず訪問者にも逢わないで、そのうめ合せには夜などコッソリ雑踏の巷をさまようのじゃないでしょうか。春泥の気質や細君の口裏などから、どうもそんな風に思われるのですよ」

本田は仲々雄弁に、春泥の面影を髣髴させるのであった。そして、彼は最後に実に奇妙な事実を報告したのである。

「ところがね、寒川さん、ついこの間のことですが、僕、あの行衛不明の大江春泥に会ったのですよ。