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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

じっとしていると思ったら大まちがいだぞ」

それから天青はまたよく歌をうたった。

常春藤の冠をあみだにかぶり

バッカスおまえはファウンのお供

こういったようなわけの知れないものだの、わざと卑しい低級な流行歌だの、そのほか各種の歌だった。そしてあんまりやかましくって周囲の客たちに悪いと思って、おれがちょっと注意したりすると必ず奇怪な身ぶりをして、ブルウタスよおん身もかといい気持そうに云うわけだった。

――こんなことをいうと拵えたように思うかもしれないが、仲井天青のようすがしだいに風格を帯びてきたと云ってもおれは良心に恥じない。彼はめきめき彼らしくなっていった、熟すべきものが彼の内部において熟し始めたんだろう。彼は彼自身をとりもどしたばかりでなく、今やとりもどした彼自身の上へよじ登ろうとさえするように思われた。

「ぼくには学問はない」天青はこう云って右手の指先で額をこつこつと叩き、ごく秘密なことをうちあけるかのようににやっと笑いながら低い囁き声でこう云うのであった。「――が、この中には詩が詰っている」

彼はしきりに文芸雑誌の創刊をもくろみだした。そろそろカム・バックしても早すぎはしないと云った。