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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

おれとしては慰めようがないわけなんだ。けれどもそれ以上は聞いているには耐えられないさ。おれは彼を抱き起こした、まあともかくもと云うよりほかにかくべつの思案もなかったもんだろう。……おれは彼を彼の家のある路次口まで送っていった。そして路次の中を覗いてみないわけにはいかなかったんだが、云ってみれば厭な気持なんだが、そうするとまっ暗になった長屋のある一軒だけ、障子に明るく電燈の光のさしている窓が見えた。……おれにはそこから見えるようなぐあいなんだ、裸電燈の下にひとりの中年の女が坐っている、側になにかの風呂敷包かなんか置いて、疲れたような顔をして、じっと坐っているひとりの女の姿がさ……。

「きみはこれを機会に東京へ帰ってくれたまえ、そして、しっかりやってくれたまえ」

天青は別れるときおれの手をぐっと握った。

「決して安きについたり投げた気持になっちゃいけない、どっちにしたって人生は苦しいもんだ、苦しむんなら自分のほんもので苦しむべきなんだよ、……じゃあさよなら、さよなら、頼むからぼくのことは忘れてくれたまえ」

そしておれは天青と別れたわけさ。

――仲井天青が死んだことは一週間ばかりまえわかった。