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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页

青空文庫

「いやそれが、それはですね、小室さんがそういう気持でいただけで、私はまるで」彼はまた赤くなり、吃った、「――まるっきり、私は知らなかったんです、本当です、だから、それがわかったので、ますますいられやしない、で、すぐに出て来たんです」

「どういう方ですの、そのお嬢さま、おきれいだったんでしょ」

「冗談じゃない、てんで、そんな、……要するにそういうわけで、すぐとびだしてですね、それから夜道をかけて五人の家をまわりました、寝ているのを起こして、金を配りましてね、かれらは泣いていましたよ」

「年はお幾つぐらいですの、そのお嬢さま」

「本当にかれらは泣きましたよ、権六の家では粥を喰べてゆけと云いました、泊ってゆけと云った家もありましたがね、さあ来ました、この茶店でちょっと休みましょう」

伊兵衛はこう云うと、さっさと道端の茶店へはいっていった。

此処は吉田の宿から西、箕山城下とは反対のほうへ、もう四里ちかくも来ている。滝沢を暗いうちに立ったが、おたよの足を劬って、悠くり休み休み歩いた。途中ちょっと駕籠に乗せたが、大部分は歩いたので、(彼としては)疲れるよりも腹が減ってきたのである。