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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
は一足お先へ。「おう、そうか、久しぶりと聞けば、前方でもすぐには返すまいし、戸口からも帰られまい、ゆっくりなせえ、並木の茶店で小休みをしながら待とうよ。」で、馬五郎がその縁類を訪れた。ここの辞儀挨拶は用がないから省略する。どれ、連中に追つこうと、宿はずれへ急ぐと、長閑な霞のきれ間とも思われる、軽く人足の途絶えた真昼の並木の松蔭に、容子の好い年増が一人、容の賤しからぬのが、待構えたように立っていて、
「もし、もし。」
女主人が是非お目にかかりたく、それゆえお迎えに参りました、と言う。
「へへえ、奥様がね。へい、はてな?」
お逢い遊ばせばわかる事、お手間は取らせませぬ、と手がのびて袂を曳かれると春風今を駘蕩に、蕨、独活の香に酔ったほど、馬は、うかうかと歩行き出したが、横畷少しばかり入ると、真向うに樹立深く、住静めた見事な門構の屋敷が見える。掃清めたその門内へ導くと、ちょっとこれに、唯今ご案内。で、婦は奥深く切戸口と思うのへ小走に姿を消した。式台のかかり、壁の色、結構、綺麗さ。花の影、松風の中に一人立つ大工の目を驚かして、およそ数寄を凝らした大名の下屋敷にも、かばかりの普請はなかろう。