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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
折から鶏の声の遠く聞えるのが一入里離れた思いがする……時しも家の内遠い処に、何となく水の音……いや湯殿で加減を見るような気配がした。いかにとぼんとした馬なればといって、広い邸の門内の素真中には立っていない。片傍に、家来衆、めしつかわれるものの住むらしい小造りな別棟、格子づくりの家があって、出窓に、小瓶に、山吹の花の挿したのが覗かれる。ふとその窓があくと、島田髷の若い女の、まるい顔が、馬を見ると、はッとした様子で、
「あれ、親方さん。」
「ええ。」
「どうして、こんな処へ。ここをどこだとお思いなさいます。――畜生道、魔界だことを、ご存じないのでございますか。」
「やあ。」
「人間のもとの身では帰られませんよ、どんな事がありましても、ここで何かめしあがったり、それからお湯へ入ってはいけません。こういううちにも、早く、早くお遁げなさいまし、お遁げなさいまし。」
「やあ、お前さんは。」
「三年あとに、お宅に飼われました、駒ですよ、駒……猫ですよ。」
ばったり、出窓の障子が上敷居から落ちて閉った時、以前の年増がもう目の前。
「お待たせいたしました。さあさあどうぞ。」
「へい、いえ、その。