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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
間淵に、例の「魔道伝書」がありましょう。女房に相伝していないと言われますか――お聞きになれば分るんですが。
「何を差上げます。ご新姐さん。」
うしろの空地に、つめ襟の服と、印半纏、人影が二つ三つさして来た。
「私は。……」
「しばらく、お見かけ申しません。」
「ご病気だった。それだもの、湯ざめをなさると不可い。猪口でなんぞ、硝子盃だ、硝子盃。しかし、一口いかがです。」
「では。わざと一つだけ。」
で、硝子盃から猪口へ通わせる。何を通わせるんだか、さながら手品の前芸です。酔方をお察し下さい。
「ご勘定、いいんですよ。」
「よくはありません。」
「私におまかせなさいまし。」
「実はおまかせ申したいんです。溝へ打棄らないで、一本松へ。」
「はあ、それはご趣向。あとで、お駕籠でお迎いに参りましょう。」
「棺桶といえ、お閻魔殿。――ご馳走でした。……お冬さん、そこで、一本松までは遥々ですか。」
「ええ、ええ、遥々……ここから小石川柳町もっと、本所ほどもありましょうか、ほほほ――そこの(ぞうしき)から直ぐですわ。」
「そいつは、心中を済ましたあとです。」
「まあ、(ぞうしき)という町の名。