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わたしのしごと しょうこうのしごと

青帛の仙女

上村 松園

上村松園『青帛の仙女』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私の仕事 松篁の仕事、わが母を語る、明治懐顧、昔尊く、古い記憶を辿って、芙蓉の花にも似た美しい楊貴妃を、冷かされた桃割娘、日本画と線、土田さんの芸術、栖鳳先生を憶う、随想、三味線の胴、今日になるまで、芸術三昧即信仰、砧、北穂天狗の思い出、寛政時代の娘納涼風俗、女の顔、想い出、帯の巾が広すぎる、大田垣蓮月尼のこと、絵筆に描き残す亡びゆく美しさ。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,693 字 · 68 页

青空文庫

昔尊く

もう丁度、五十年の昔になりましょうかしら、たしか、私の十九歳の頃のことでした。明治二十五、六年の、忘れもしない四月二十一日の夜明方、隣の雑貨屋さんから火が出まして、私どもの家もおかげで半焼のうき目にあったのでした。その頃私たちは四条通りの非常に賑やかな通りにいまして、お茶々の商売を致してましたのです。

何でもランプを落としたのが火の始まりとかで、夜明けといってもまだ夜中のことでした。火事というので起きた時には、はやお隣さんは一面の火の海、もう私の家にも燃えうつってる様です。そうした有様なので何も取り出す暇がございません。愚図愚図して傷でもしたら大変と、母は手をとって促すのでしたが、私はただ呆然と焼けて行く我家のさまを、口惜しいやら悲しいやらで見とれていたのを今でも思い出します。

なにしろ、雑貨屋さんが火元だけに燃え易いものも沢山あるわけ、火の廻りが早かったのも、一つはそんなことでしたでしょう。しかし、何としましても、私には惜しいものばかり、まして奥の机には、苦心に苦心を重ねて集めました参考品に写しましたもの、それに大事な絵巻物や印材など、私にとっては金に換えがたいものばかりを蔵っていたのでございましたわけで、それだけは、どうしてもなくしたくなかったのでした。