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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
「兄さんわたし、結婚しようと思うんです。」
思いきっていって、それで、借金をたのもうと思ったのだが、房次はそれほどせっぱつまっているとも知らず、呑気なことをいった。
「ふーん。脊椎はもういいのかね。」
「ええ、あの、ハシカ以来、なおったらしいです。ウミ、出ないんですもの。」
「そりゃよかった。お前がそんな気なら、わしも心がけとくよ。嫁のほしいのは何ぼでもいるよ。しかし、わしのぐるりは商人ばっかりでな。それでもええか。」
十五の年から家を出て丁稚から叩きあげた房次は、茂緒の心の歩みなど全然関心がない様子だった。ただ、この病気の妹が、結婚からとりのこされている哀れさだけを感じているらしい。
「わたし、自分で見つけますからご心配なく……」
仕方なく茂緒は笑ったが、それでもうあとのことはいえなくなってしまった。嫂も帰ってきた。寝床に入ってからも、明朝までにもう一度房次と話す機会を考えたが、それは希望的ではなかった。借金のことはともかくも、これから東京で暮すとすれば、何かにつけて頼らねばならないだろう房次の家を、妙な出方はしたくなかった。平凡にそんなことを考えて、茂緒は一心に房次をさぐっていた。