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しゃべりすぎる

饒舌りすぎる

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 55 页

青空文庫

「北園の娘はどうしている」

「あれは嫁にいって死んだよ」と十太夫はまたあるきだしながら云った、「いったさきの名は忘れたが、初めてのお産がひどい難産、そのために死んだということだ」

土田正三郎は黙ってゆっくりと頷いた。十太夫は笠のふちを指ではじいて雪をとばし、合羽をばたばたと、鳥の羽ばたきのように振って雪を払いながら、口の中でぶつぶつ独り言を呟いていたが、急になにごとか決心したように、「じゃこれで」と云いさま辻になっている道を、せかせかと右のほうへ曲っていった。

その翌日から五日のあいだ、十太夫は土田の役所へあらわれなかった。役部屋の者たちはふしぎそうな、そして、なにか始まるぞという刺戟的な期待のために仕事も手につかないような眼つきで、ひそかに土田正三郎のようすを見まもっていた。頭取の加地宗兵衛は三日めに気がついたらしい。頭取部屋は役所の中で一人だけ別になっているが、三日めの下城の刻が近くなってから、仕切の襖をあけて、土田の机の側へやって来た。

「どうしたんです、あの豪傑は」と頭取は温厚な笑顔で問いかけた、「二、三日みえないようだが、なにかあったのですか」