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こうすいしんし

香水紳士

大阪 圭吉

「少女の友」實業之日本社、1940(昭和15)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,752 字 · 16 页

青空文庫

網棚の上の風呂敷の中には、お母さんから托された、お祝いの品が包んである。昨日、お母さんと二人で、新宿へ出てととのえた品であった。が、その時、おなじ店で、お母さんに知れないように、自分だけのお祝いのつもりで、買い求めたもう一つの品物がある。

それは、クルミさんの制服のポケットの中に、こっそり忍ばせてあった。

可愛い真紅のリボンをかけた、小さな美しい細工の木箱にはいった香水だった。

「なにか、あたしだけのお祝いをあげたい‥‥」

と思い、

「なんにしようか知ら?」

と考えて、思いついた品だった。

「これ、あたしだけの、お祝い‥‥」

そういって、こっそり信子さんに渡すときの楽しみを、昨夜から胸に描いていたクルミさんである。

その香水の、可愛い木箱と一緒に、クルミさんのポケットの中には、チューインガムとキャラメルがはいっている。快い小旅行への、楽しい用意であるはいうまでもない。

実際、クルミさんは、今日の国府津行を、もう三日も前から、夜も眠られないほど楽しみにしていた。

いよいよ今朝になると、もう御飯もろくに咽喉を通らない。

「駄目ですよ、クルちゃん。御飯だけは、ウンと食べて行かなくっては‥‥」