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こうすいしんし

香水紳士

大阪 圭吉

「少女の友」實業之日本社、1940(昭和15)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,752 字 · 16 页

青空文庫

三

しかし、すぐにクルミさんの頭の中には、ムラムラとひとつの疑惑が持上った。

「でも、もし軍人さんだったなら、どうしてそのように貴い御負傷を、こんなに不自然にお隠しになるのだろう?」

――そうだ、たとい、軍人さんでなくって、普通にお怪我をなさった方にしても、こんなに不自然な、隠されかたをされる筈はない。

クルミさんは、そう思うと、なんだか前よりも体が引きしまるような気がして、一層小さくなりながら、硝子越しに、ひたすら窓の外を見詰めつづけるのだった。

三

間もなく列車は、横浜を過ぎた。

「ひょっとすると、横浜で下りてくれるかも知れない」

そう、ひそかに心の中で思っていたクルミさんの望みも、すっかり裏切られて、紳士は、相変らずクルミさんの眼の前にいる。それどころか、読みかけの新聞を、帽子をかむったままの顔の上へ乗せるようにしたまま、どうやら居睡りでもはじめたらしく、軽い鼾が聞えて来る。この分だと、何處まで行くか知れない。ひょっとすると、国府津よりも向うの、小田原か、熱海あたりまで行くのかも知れない。

クルミさんは、とうとう観念してしまった。

「これでもう、大船のサンドウィッチも、みすみすダメになってしまった」