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こうすいしんし
香水紳士
大阪 圭吉
「少女の友」實業之日本社、1940(昭和15)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,752 字 · 16 页
五
列車は、国府津駅にとまった。
なおも居睡りつづける紳士を残したまま、クルミさんは、列車をあとにした。そして、駅を出ると、まるで火でも放ったようなはりつめた顔をして、すぐ駅前の、交番の前へ立ったのである。
五
湘南から伊豆の町々へかけて、警察電話が、活発な活動をしはじめた。
小田原から伊東に至る十一の停車場の出口には、鋭い眼をした私服のお巡りさんたちが、眼でない、鼻をヒクヒクさせながら、まるで旅客のような恪好で、こっそり立ちはじめた。
ここは、熱海の駅である。
午前十時四十六分、伊東行きの列車が到着すると、大勢の旅客たちが、広いプラット・ホームになだれ出た。
その人びとの中に混って、一人の異様な紳士が――満身にすばらしい香水の匂いをプンプンさした紳士が、右手をスプリング・コートのポケットへ入れたまま、なにかひどく腑に落ちかねたような顔つきで、鼻をヒクヒクさせながら、人混みをかきわけるようにして、出口のほうへ歩いて行った。
人びとは、誰もかも、その紳士の発散する、強い激しい芳香に打たれて、びっくりしたように立ちどまると、不思議そうな顔をして、或はあきれたような顔をして、紳士を見返り、見送った。