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こうすいしんし

香水紳士

大阪 圭吉

「少女の友」實業之日本社、1940(昭和15)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,752 字 · 16 页

青空文庫

一

一

品川の駅で、すぐ前の席へ、その無遠慮なお客さんが乗り込んで来ると、クルミさんは、すっかり元気をなくしてしまった。

「今日は、日本晴れですから、国府津の叔母さんのお家からは、富士さんがとてもよく見られますよ」

お母さんからそう聞かされて、喜び勇んでお家を出たときの元気はどこへやら、座席の片隅へ小さくなったまま、すっかり悄げかえって、窓越しに、うしろへ飛び去って行く郊外近い街の屋根々々を、ションボリ見詰めつづけるのだった。

東京駅発午前八時二十五分の、伊東行の普通列車である。

その列車の三等車の、片隅の座席に、クルミさんは固くなって座っているのだ。

日曜日で、客車の中には、新緑の箱根や伊豆へ出掛けるらしい人びとが、大勢乗っている。

しかしクルミさんは、箱根や伊豆へ出掛けるのではない。ずっと手前の、国府津の叔母さんのところへ行くのだった。

国府津の叔母さんのところには、従姉の信子さんがいる。信子さんは、クルミさんより五つ年上の二十一で、この月の末にお嫁入りするのである。クルミさんは、日曜日を利用して、娘時代の信子さんへの、お別れとお慶を兼ねて、叔母さんのお家へ出掛けるのだった。