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こうすいしんし

香水紳士

大阪 圭吉

「少女の友」實業之日本社、1940(昭和15)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,752 字 · 16 页

青空文庫

二

そしてそのお客さんのお蔭で、とたんにクルミさんはすっかり悄げかえって座席の片隅へ、小さくなってしまったのであった。

二

その客は、年のころ四十前後の、眼つきの妙に鋭い、顔も体もいやに大きな、洋服の紳士であった。

中折帽を眼深にかむって、鼠色のスプリング・コートのポケットへ、何故か右手を絶えず突込んだままでいる。

最初、紳士は、車室の中へはいって来ると、通路に立ったまま、素早く車内を眺めまわし、まだほかにも席がないではないのに、ふと、クルミさんのほうをみると、さも満足したような表情をチラッと見せて、すぐにやって来ると、クルミさんの眼の前の席へ、大きな体で無遠慮に、黙ったままドシンと腰掛けたのであった。

そして、笑うでもない、怒るでもない、まるでお面のような無表情な顔で、クルミさんの顔を、体を、シゲシゲと見るのだ。

帽子はかむったまま、右手はポケットへ入れたままである。

クルミさんは、ヒヤリとして、身をすくめると、窓の外へ顔をそむけてしまった。

列車はいつのまにか、新緑の大森の街を走っている。

空は、すばらしい日本晴れだ。

普通ならば、もうこの辺で、そろそろチューインガムを噛みはじめる予定だったのに、いまはそれどころではない。