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こうやひじり

高野聖

泉 鏡花

「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页

青空文庫

ああその力をもってなぜ救わぬ、儘よ!

滝に身を投げて死のうより、旧の孤家へ引返せ。汚らわしい欲のあればこそこうなった上に躊躇するわ、その顔を見て声を聞けば、かれら夫婦が同衾するのに枕を並べて差支えぬ、それでも汗になって修行をして、坊主で果てるよりはよほどのましじゃと、思切って戻ろうとして、石を放れて身を起した、背後から一ツ背中を叩いて、

(やあ、ご坊様。)といわれたから、時が時なり、心も心、後暗いので喫驚して見ると、閻王の使ではない、これが親仁。

馬は売ったか、身軽になって、小さな包みを肩にかけて、手に一尾の鯉の、鱗は金色なる、溌剌として尾の動きそうな、鮮しい、その丈三尺ばかりなのを、顋に藁を通して、ぶらりと提げていた。何んにも言わず急にものもいわれないで瞻ると、親仁はじっと顔を見たよ。そうしてにやにやと、また一通りの笑い方ではないて、薄気味の悪い北叟笑をして、

(何をしてござる、ご修行の身が、このくらいの暑で、岸に休んでいさっしゃる分ではあんめえ、一生懸命に歩行かっしゃりや、昨夜の泊からここまではたった五里、もう里へ行って地蔵様を拝まっしゃる時刻じゃ。