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こうやひじり
高野聖
泉 鏡花
「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页
八
時々爪尖に絡まるのは葉の雫の落溜った糸のような流で、これは枝を打って高い処を走るので。ともするとまた常磐木が落葉する、何の樹とも知れずばらばらと鳴り、かさかさと音がしてぱっと檜笠にかかることもある、あるいは行過ぎた背後へこぼれるのもある、それ等は枝から枝に溜っていて何十年ぶりではじめて地の上まで落ちるのか分らぬ。」
八
「心細さは申すまでもなかったが、卑怯なようでも修行の積まぬ身には、こういう暗い処の方がかえって観念に便がよい。何しろ体が凌ぎよくなったために足の弱も忘れたので、道も大きに捗取って、まずこれで七分は森の中を越したろうと思う処で五六尺天窓の上らしかった樹の枝から、ぼたりと笠の上へ落ち留まったものがある。
鉛の錘かとおもう心持、何か木の実ででもあるかしらんと、二三度振ってみたが附着いていてそのままには取れないから、何心なく手をやって掴むと、滑らかに冷りと来た。
見ると海鼠を裂いたような目も口もない者じゃが、動物には違いない。不気味で投出そうとするとずるずると辷って指の尖へ吸ついてぶらりと下った、その放れた指の尖から真赤な美しい血が垂々と出たから、吃驚して目の下へ指をつけてじっと見ると、今折曲げた肱の処へつるりと垂懸っているのは同形をした、幅が五分、丈が三寸ばかりの山海鼠。