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こうやひじり

高野聖

泉 鏡花

「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页

青空文庫

あわれあの時あの婦人が、蟇に絡られたのも、猿に抱かれたのも、蝙蝠に吸われたのも、夜中に魑魅魍魎に魘われたのも、思い出して、私はひしひしと胸に当った。

なお親仁のいうよう。

今の白痴も、件の評判の高かった頃、医者の内へ来た病人、その頃はまだ子供、朴訥な父親が附添い、髪の長い、兄貴がおぶって山から出て来た。脚に難渋な腫物があった、その療治を頼んだので。

もとより一室を借受けて、逗留をしておったが、かほどの悩は大事じゃ、血も大分に出さねばならぬ、殊に子供、手を下すには体に精分をつけてからと、まず一日に三ツずつ鶏卵を飲まして、気休めに膏薬を貼っておく。

その膏薬を剥がすにも親や兄、また傍のものが手を懸けると、堅くなって硬ばったのが、めりめりと肉にくッついて取れる、ひいひいと泣くのじゃが、娘が手をかけてやれば黙って耐えた。

一体は医者殿、手のつけようがなくって身の衰をいい立てに一日延ばしにしたのじゃが三日経つと、兄を残して、克明な父親は股引の膝でずって、あとさがりに玄関から土間へ、草鞋を穿いてまた地に手をついて、次男坊の生命の扶かりまするように、ねえねえ、というて山へ帰った。