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ぎょもん

魚紋

吉川 英治

「冨士 臨時増刊号」1936(昭和11)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,582 字 · 30 页

青空文庫

『餅網とは、うまい物へ入れたものだな』

『中洲の米屋の隠居所へ押込に入って、それだけの金を盗ったはいいが、重いので持つにも困って、女中部屋から餅網を見つけ、そいつへ金を入れて、悠々と担いで来る所を、女橋の辻番小屋から六尺に尾行られたので、まだ、逃げきれるつもりだったんでしょう。その金を、河岸から川の中へ抛り込んで、一目散に逃げ出したらしいんです。――所が、黒江の辻まで来ると、運わるく、町見廻りの旦那衆にぶつかってしまったので、前と後の両方から挾み撃を食って、さしもの和尚鉄も縛り上げられてしまったわけでさ』

『白洲で、金の事は申し上げてしまわなかったのかなあ』

『出鱈目を云い通したんでしょう。お上でも分らず仕舞、米屋の隠居所でも、泣き寝入りとなっています』

『じゃあ、和尚の鉄雲は、その川の中の金を俺に引揚げてくれ――とこう云うのだな。おれに譲るというんだな』

『……で、誠に何ですが、その、私も首を賭けて、こういう危い使いに来たのでございますから、そこをお酌み下すって、幾分かの所を山岡屋の手から頒けてもらえと、和尚鉄も申しましたので』

『そいつあ分っているよ。だが、嘘じゃアあるまいが、一応、ほんとに川底に、金が有るか何うかを、確めた上でなくっちゃ、お前さんにも礼はやれないぜ』