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ぎょもん
魚紋
吉川 英治
「冨士 臨時増刊号」1936(昭和11)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,582 字 · 30 页
『はてな、たしかに、この辺だと云ったが?』
朝の空があまり晴れているので、雲が水面に映って見にくいのである。けれど水はよく澄んでいた、白い瀬戸物の破片だの、俵だの、傘の骨などはよく見える。
『も少し、真ん中のほうかしら』
考えてみると、河床は、河心へ向って、だんだんに深くなっているので、雨ふり揚句の水嵩が増した時などには、其の方へだんだん移動してゆくのが自然だった。
棹を入れてみると、だいぶ深い。彼は、夢中になって、突っ立てては船を移した。底の沼土が、むらむらと浮いて、水はいちめんに暗くなる。然し、流れが早いので、又すぐに澄み返った。
『……あっ、あった』
棹は水面へ抛ってしまった。そう深くも見えない所だ。青々と水が渦を描いている。両手を眼にかざして覗きこむと、雑魚の影さえ透いて見えるではないか。
封金の封紙が洗い流されてしまっているので、夥しい山吹色の黄金が、素裸で水に研がれているのだった。
『ウーム、成程、網袋に詰っている』
いくら見ていても見飽かない山岡屋の顔つきだった。今にも、何とかして引き揚げてしまいたいが、対岸に、船番所のある事、河岸をゆく往来の者が、ともすると立ち止まること、物売り船や荷足船が絶えず上下しているので、すぐ感付かれてしまいそうな事――