轻松读懂日语经典作品
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ぎょもん
魚紋
吉川 英治
「冨士 臨時増刊号」1936(昭和11)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,582 字 · 30 页
『困りましたな。もうこの三月の初めにゃ、とっくに刷も綴も出来て、版元へ納まっている筈なんですぜ。――絵が出来ないばかりに、彫にもかかれず、手前どもの職人の手も空いちまっているんです』
『すまない、今日は描く』
『その今日が、四十日も持ち越されちゃあ』
『きっと、今日いっぱいには』
『お邪魔でも、待たせておいて頂きましょう。もう、手ぶらじゃ帰れませんから』
『そんな事をいわないで、今日――今夜だけ、待っておくれ。――今夜こそ、徹夜をしても、きっと描き上げてみせるから』
『ほんとですか』
『大丈夫』
――だが、彫兼が帰ると、春作は、机に、ぼんやり頬づえをついた儘、半日も、何か考えこんでいた。
(そうだ)
われに返ったように、雁皮紙へ絵筆を執り出したが、いくら描いても、反古を作るばかりだった。そしてしまいには、無数の女の顔を、徒らに描き初めた。その女の顔は皆、お可久に似ていた。
『……あの七百両の金が手に入れば』
筆をおくと、そんな事を考えた。恋の為に、金の魅力だった。然し、彼にはそれを自分の物にするだけの自信がない、勇気がない、悪智がない。
あの事を、耳にした晩、春作はすぐ、台所部屋のすみで、お可久にその秘密を話してみたが、お可久は、大してそれに昂奮もしなかった。