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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
何かにつけて暇のある竹屋三位、思いつくと童心のようにこらえているということがない。ばらばらとそこを降りて、己れの部屋へ向いかけたが、その途中、先刻立った廻廊のところまでくると、そこに老臣や多くの者が寄り集まって、愁然たるうちに、どこやら物騒がしく駈け廻っていた。
みると、作事方の責任者である、益田藤兵衛と中村兵庫のふたりが、最前、阿波守へ平伏した庭先の場所から、一寸もいどころをかえずに、そのまま、腹を切っていたのである。
ふたりの死骸は、すでに運び去られてあったが、血汐を吸った庭土には、まざまざと濡れている痕があった。
「兵庫は偉い! 藤兵衛もさすがだ」
こう言いながら、竹屋三位、その騒ぎの中をぬけて居間へ入った。実際、かれはそう思った。清涼剤のような心地がした。
「それにつけても、歯がゆいやつは天堂一角、たかのしれた弦之丞ひとりを大勢して、いつまで持ち扱っているのだ」
憤然といったものである。
宿直のものが襖越しに聞いていたら、阿波守がつぶやいているのではないかと間違えるくらいに。
やがて硯をよせて、墨をすりだした。
土佐ずきの巻紙をのべて、活溌な文字を書きだした。