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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
遠眼鏡
こう考えながら、いつか、本田堤の辺までくると、とある居酒屋の軒下に、一挺の駕が置いてあった。
駕の屋根に、源内も忘れ、駕屋も忘れてしまった芍薬の花が、露もひからびて乗せてある。それを見るとお米は、さっきの見覚えを思いだして、
「あ、あの駕屋さんに聞けば、分るに違いない」
と、居酒屋の中を覗いてみた。
遠眼鏡
表鳥居の参詣道をまッすぐに上って、岩船山の丘、高津の宮の社頭に立ってみると、浪華の町の甍の上に朝の空気が澄みきって、島の内から安治川辺の帆柱の林の向うに、武庫の山影も、行くところまで見晴らされる。
石段へかかると、女は日傘を畳み、男は菅笠の紐を解いて、清々しい新緑を仰いだ。参詣をすまして戻ってゆく御寮人の手には、名産の花塩がたいがい提げられている。
そのゆるい足音が流れてゆく石畳の道を、目に立つ自来也鞘と、十夜頭巾と、異風な総髪が、大股に、肩で風を切って行った。
お供はひとり、仲間の宅助。
三人の後について、これもせかせかと石段を踏み上った。
なんのことはない、この四人だけは、真っ向に、神殿へ向って楯を突きに来たような歩き方だ。だが、上までのぼりきると、拝殿のほうには一瞥も与えないで、額の汗を押し拭っている。