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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

踊らぬ人影

と、不意に足を止めさせた。

「――何か今、息杖の先で、刀の鞘のようなものを蹴りはせぬか」

「さあ? ……」

「でなければ、短刀、そんな物を」

「何しろ、千本屋敷まで急げとおっしゃったんで、夢中で駆けておりましたので」

「ウム、気がつかなかったか。では、その提灯を揚げてみろ。イヤ、この辺へ……」

「へい」

と、棒鼻からはずした提灯を取って、駕屋がそのあたりをかざして見せると、侍は、駕から半身をのり出して、黄色く浮きあがった夜露をジッと眺め廻していた。

笠の紐に、二重に結ばれた頤をさし覗くと、がっしりした中年以上の武家、それは、大阪表から久しく姿を見せずにいた常木鴻山であった。

踊らぬ人影

剣山は常時の態にかえった。

麓のかためも形ばかりに解かれた。

あれから、夜明けに、山を下って龍耳老人が、

「ふたりは、わしが討ってとった」

と、力強くいったことばを、誰とて信じて疑わない。

当然、そうあるべき帰結のように、耳から耳へ瞬伝した。

「隠密を殺せば不吉がおこる、殺してはならぬという蜂須賀家の掟じゃ。それを破って殺してきた。ことのついでと、死骸も谷間へ蹴こんできたが、ほっておいて、後日の咎めを待つよりは、このこと、わしから太守へ御報告に出かけよう」