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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

その時、通用門まで出てきた竹屋卿は、待たせておいた啓之助の姿が見当らないので、

「森! 森!」

としきりに向うで探している様子。

「はっ、只今、只今」と啓之助。

外の声に急かれながら、紙入れを取り出して、せかせかと二朱金の粒を撰り、

「それ、これは当座じゃ」

と宅助の手へ握らせたが、出し惜しみをした紙入れのほうから、チリンと、二、三枚小判が辷った。

「ほい」と宅助は腰を浮かして、

「この通りのお気前だから――」

如才なく土間へ下りて、その小判を踏んづけながら、

「命を投げても、御奉公のためならという気になってしまいますよ。おッと旦那、襦袢のお襟が折れております」

追い出すように、仲間部屋の戸を開けてやった。

あなたの闇には、三位卿の影が動いて、

「おい、森ッ、森はどうした」

と、待ちじれた声をしている。

「はっ、只今、只今」

と、それに答えながら、駈けだして行ったかれの月代に髷がおどって見えた。

四国屋のお久良は、手代の新吉が心からの諫言を決して上の空に聞いてはいなかった。

新吉が心配しぬいている通り、こんどのことが悪く発覚すると、店の土台へ亀裂の入るような破滅になるかもしれない。