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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
それはお久良も承知していた。また法月弦之丞やお綱たちが、何のために阿波の関を越えようとするのか、それもうすうすは察していた。
「けれど、あの方たちには、木曾路でうけた御恩があるのだからね」
今も寮の奥で、お久良はその新吉を前にしながら、深い吐息をもらしている。
「そりゃ恩はありますが、お家様のように、そう義理固くお考えなさらずに、店の船へ抜け乗りをさせることだけは、態よくお断りなすってはどうかと存じますが」
「私の気性として、そんな恩知らずのまねはできませぬ」
「じゃ、どうしても、明日の船へ」
「ああ、何とかいい工夫をして、阿波まで乗せて行ってあげておくれ。それだけのことさえして上げれば、後はとにかく、私の心だけはすむのだから」
新吉は口をつぐんでしまった。そしてもう止めるような諫めはしまいと思った。お家様は恩を楯にとって動かないが、お久良が江戸の生れだということに気づいて、恩という以外に江戸贔屓な、一種の加担がその心にまじっているのを覚ったからである。
「よろしゅうございます。それ程までにおっしゃるなら、なんとか思案をいたしまする」
「どうか、いいように、計らっておくれ」