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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
「江戸の奴が……江戸の隠密が……」
「な、なにを仰せ遊ばす!」と三位卿は、夜具の上へ諸仆れになりながら、
「渭山の城中に、なんで、江戸の隠密などがおりましょうぞ。夢をみておいでられたのであろう、おお、方々、早く燭を――いつもより燭台を多く!」
右往左往して騒ぐうちに、間もなくそこは、晃々とした灯の明りに、物の蔭もなくなって、仰むけに寝かされた重喜の顔だけが青白かった。
典医がきて診なおすと、夕刻前よりはいちじるしく熱があがっていた。だが、それっきり悪夢を口走る様子はなかった。むしろ、平常のかれよりいっそう冷徹にその神経が冴えてきたようであった。無論、それも病的にではあるが――。
啓之助は、遂にその夜、城をさがることができないで、公私二つに気が散っていた。
私事のほうの気がかりは、お米のことであった。きょう岡崎の港を出て大阪へ向った四国屋の舟には、お米と仲間の宅助がのって行った。――それはかれが、止むなく許してやったことだが、どうも、あのままこの阿波へお米は帰ってこないような気がする。
しまった。幾ら泣こうが吠えようが、大阪へやることを許すのではなかった。