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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
というのが――あの騒動のうちに、艫へなだれて行った乗合客の中に、ハテナと、小首をかしげた女を見たので。
手拭に顔を隠していても、お十夜にとれば、お綱はあれまでにほれていた女、決して、あかの他人を見るごとくではない。
すべての者は、皆つづらの中に気を奪われて、他に何ものもないくらいだったが、孫兵衛は、周馬にも耳打ちして、絶えず、それへ眼をつけていた。で、ついに仲間の舟へは乗りおくれた訳であるが、やがて有村も一角も、あわてて追いをかけてくるに違いないと察していた。
案のごとく、洲本の沖あたりから、それらしい船が後ろから白浪を蹴立ててくる。それらに来られてからでは気が利かない、その前に料理しておこうではないか――と、周馬があぶながるものを、孫兵衛、いきなり弦之丞の足元へ綱を投げた。そして、かれは巧妙に帆柱の蔭へ立ったので、周馬は運悪く弦之丞の切ッ尖に追い廻されてしまった。
で――とうとう、帆柱の上までスルスルよじ登った旅川周馬。
「お、そこまで来たな」
と、近づく船影にホッとした。そしていきなり、脇差を抜き、片手にふるって、蜘蛛手に張り廻した帆綱帆車、風をはらみきった十四反帆! ばらばらズタズタ斬り払った。