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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

先に立って歩きだした。

まさか、逃げるとは考えられない。自分から捕手の前へ立った彼――。

五歩――六歩――誰も足を出す者がなかった。

「傍若無人なやつだ、よしッ、俺が」

と、釘抜きの歯がみをさせた眼八。

目をつぶってゆく気もちで、一跳足に、かれの体へ貼りついた。と、弦之丞、身をひねって、

「これッ」

と、眼八の小肥りな体を、左の腕の中へ締め込んで、グッと抱きあげ、後の十手へ白木の杖を一揮りするや、急に、眼八をかかえたまま、女坂を闇の底へ、ドドドドドッと駈けだして行った。

途端。

怯智な居すくみをどやされた捕手や同心たち、あッと眼色をかえ、初めて、瞬間的な狂人になり得て一散に、麓へ小さくなる白いものを追いかけた。

やがて、薬王寺の山の裾で、ワーッと、乱闘の叫びが起こる。

目前にいた対手を逸して、今さら仰天した捕手のわめきであろう。逃がしては大事と、駆け廻っている同心たちの叱咤であろう。

ところが、皆の疾走したあとに、三、四人ほど駆けおくれていた。

召捕った二人の縄尻をつかまえていた者で、これは空身でないから、走るに走り得ないで、縄付を突きとばすように、後からあわてて気を急ぐ。