轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

理由もいわずに弦之丞が、せっかく手に入れた秘帖の一端を裂いて老人へ贈ったのは、それに酬う武道の情義であった。いいかえれば、恩讐を超えた心と心の答礼だった。

「ありがとうぞんじます」

侏儒はそれをふところに納め、孫兵衛の首級を袖にくるんで、

「では、皆様」と、もう一度辞儀をして、阿波川島の郷里へ帰るべく、急ぎ足に麓の近道を拾っていった。

後に思いあわせれば――。

徳島城の城地没収、二十五万石取潰しの審議が老中議判となった時、唯一の証拠である、世阿弥血筆の秘帖の一部が裂きとられてあったため、そこの数ヵ条の肝腎な個所が不明となり、蜂須賀家の申しひらきが幾分か立って、あやうく断絶の憂き目をまぬがれ、重喜の永蟄居だけで、一大名の瓦解を見ずに落着したのは、まったくその時、侏儒のふところに持ち帰された一紙片の力といえるもので、思えば弦之丞が龍耳老人へ酬いたものは、大きな贈り物であった。

しかし、それは後日になって、当面の人たちだけが思い当たって感謝したことだ。……今、侏儒の姿が麓へ小さく隠れてゆくのを見送っている弦之丞には、頬の微笑と、快い感情の波が人知れず胸にうった。