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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
「決して」
弦之丞は鴻山の言葉を否定して、
「不平などはみじんござりませぬ。そう誤解して下されては困る。そのことは、とうから心にもっていた拙者の宿望です。――幸いにして、なかるべき筈の一命をたもち、父祖食禄をうけてきた幕府へも、いささか報恩の労をつくし得たことは、法月家の不肖児弦之丞としてできすぎた僥倖。なんで、それが誇り、なんで、望外な出世をのぞみましょうや。ただ、慾には、この微功をもって、お千絵殿の家名が立ち、また、ほかの方々にも何らかのお沙汰がありとすれば、拙者の本分、これ以上はないのでござる」
「いや、それでは、お千絵殿をはじめ、他の者も、第一この鴻山にしても、自身の本望はとげたにしても寝ざめのよくない心地がする。ぜひ、貴殿もいちどは江戸へ御帰府あるようにおすすめいたす。いや、お願いする!」
と、鴻山は熱をこめて言った。
その言葉は、お千絵の秘している心を代弁してくれるようであった。同時に、万吉もいわんとする気持を鴻山がつくしてくれたような気がした。
しかし、お綱の考えはどうであったろうか? すくなくも今のお綱の胸のうちは千々にみだれているに違いない。