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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

「四国屋様――」

お綱は、改まって、小腰をかがめた。

「はい……」

とは答えたが、その時、お久良も新吉も、少し気味の悪そうなたじろぎをみせて、

「なんぞ、改めて御用でも」

「折入ってあなた様に、お願いをしてみたいと向うにいる連れの者が申しまする。なんと、お聞きなされて下さいましょうか」

「それはもう……」と、お久良は愛嬌のある口元から、鉄漿の艶を見せて、

「御恩のあるあなた様のこと――自分たちに出来ますことなら、何なりと……」

「わずかな御縁につけ入って、あつかましいお願いをするやつと、こうお思いなさるかもしれませんが」

「どう致しまして、それどころか、私どもこそ、お住居を尋ねても、いちどはお礼に出たいと存じておりましたくらい。そして、お頼みということは?」

「お宅様の持ち船が、阿波の国へ帰る時に、乗せていただきたいのでございます」

「えっ、阿波へ?」

「連れは三人、ぜひともあちらへ渡りたい用が」

「ま、お待ちなさいまし」

お久良はこうさえぎりながら、少し道傍へ――堤の裾へ寄って行った。

鴫野の花圃か、牡丹園へ行った戻りでもあろうかと見える、派手な町駕が五、六挺、駕の屋根へ、芍薬の花をみやげに乗せて通り過ぎる。