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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

門を入った彼は、すぐ左の柴折戸をあけ、若木の松林をぬけて、じかに母屋の縁側のほうへいった。そのとき縁側の向うから、若い侍女が鬢盥を持って来かかり、小五郎をみつけて、吃驚したように会釈した。

「帰っているか」彼は云った、「奥だな」

小五郎は縁側へあがった。

「はい、あの」と侍女は慌てた、「いまお知らせ申しますから」

「自分でゆく、おまえは来るな」

「それでも、あの」

「来るな」と彼はどなった、「来ると承知しないぞ」

侍女は鬢盥を持ったまま立竦んだ。小五郎は足音あらく廊下をゆき、刀を取って持ちながら、右手の、障子のあいている座敷へ入ると、その隣りの部屋(やはり襖があいていた)へ踏み込んだ。そこにはさだがいた。汗を拭こうとしていたらしい、肌ぬぎ姿であったが、胸を浴衣の袖で隠しながら、こっちを見た。

彼女の顔はするどくひき緊り、その眼は怒りのため燃えるようにみえた。

「みたよ」と小五郎が立ったままで云った、「蜂屋で男と逢っているところを、この眼で見たよ」

さだは黙って彼をにらんでいた。

「なんとか云わないか」小五郎は云った、「おれは知っていたんだ、ずっとまえから、おまえは梅雨あけからこっち、泳ぎにゆくといって毎日でかけた、おれが来るといつも留守だ、それでおれは注意しだした、おまえは泳ぎゃあしない、泳ぐふりをして、毎日あの男