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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

三

「ええさっきから」とその声が云った、「向うから潜って来て見ていました、ちょうどあなたが鼻を擦っていたとき」

半三郎はつい鼻を擦った。

「ねえ」とその声が云った、「いっしょに泳いで頂きたいんだけれど、いかが」

半三郎は答えられなかった。

三

「ねえ」その声はしだいに乱暴になった、「あなた泳ぎを知らないんでしょ」

「知っているさ」

「じゃあいらっしゃい」その声が云った、「今日は大丈夫よ、ほら」

水の音がして、岩蔭からすいと、女が向うへ泳ぎ出た。腰に巻いている赤い二布が、まっ白な太腿に絡まっていた。半三郎は眼をすぼめた、腰は隠れているが、あらわな胸のふくらみがひどく眩しい。女は手をあげて叫んだ。

「いらっしゃいよ、早く」女は云った、「そのくらいの勇気はあるでしょ、あなた」

半三郎は立って帯を解いた。

「わあ嬉しい」女が叫んだ、「早くよ、早く」

半三郎は下帯だけになり、岩の上からいさましく跳び込んだ。女は泳いで来て、半三郎が浮きあがると、頭を押えて沈めた。半三郎は水を飲んだ。女は絡まって来て、浮きあがろうとする彼を押えつけた。半三郎は息が詰り、女を振放して脇へ逃げた。