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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

二

段平は旦那が今日も手ぶらで、おまけに竿も持たずに帰ったので首を振った。

二

旦那が井戸端へゆくのを見送りながら、段平はまた首を振り、頭のうしろを掻いた。

「なにをしにゆくだかさ」と段平は呟いた、「魚は一尾も釣らねえ、おまけに竿までなくして来るなんてさ、あんな立派な竿をよ、へ、――」

夕飯のとき、段平は客があったのを思いだした。彼は給仕をしながら旦那に云った。

「午めえに柏原さまがおめえになりました」

すると半三郎は眼をつむった。半三郎は手に持った茶碗の飯を見ていた、箸を添えてまさに喰べようとしながら、炊きたての、香ばしい匂いのする麦飯をみつめていたが、段平にそう云われたとたん、彼はぎゅっと眼をつむったのである。それも、あまり強くつむったので、瞼や眉間に深い皺が寄ったくらいであった。

「どうかなせえましたか」

驚いて段平が訊いた。

「うん」半三郎が云った、「なんでもない」

「柏原さまがおいでなせえました」段平が云った、「えらくお気にいらねえあんべえで、どういうつもりだって、来るそうそうから毎日出てばかりいてなんのつもりだって、――旦那は御謹慎の都合でこのお国許へお詰めさされささったっちゅう」