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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

と逢っていたんだ、違うか」

「よく御存じだわ」とさだが云った、「そのとおりよ」

「そのとおりだって」彼はふるえた。

「ええそのとおり、あなたの云ったとおりよ」

彼は蒼くなった。彼はそういう返辞を聞こうとは予想もしなかった、彼は蒼くなり、かっとのぼせあがった。

「おまえは」と小五郎は吃った、「おまえは、正気でそう云うのか」

「そのおまえをよして下さい、わたくしまだ藤江内蔵允の妻ですから」

「父の妻だって」

「そして義理にもよ、あなたにとっては母の筈よ」

「このおれの母、――その汚らわしい女がか」

さだは一瞬あっけにとられたように彼を見た。小五郎も「あ」という顔をした。さだの眼は突刺すようにするどかったが、その唇には微笑がうかんだ。ぞっとするほど冷たい、人をたじろがせる微笑であった。

「わたくしがまだといったのは、まだいまはという意味よ」さだは云った、「御心配には及びません、すぐにこの家を出てゆきますから、あなたはもうすぐ、この汚らわしい女を母と呼ぶ必要はなくなりますわ」

「口がすべったんだ、勘弁してくれ」小五郎はまた吃った、「気が立っているものだから、つい知らずあんな」