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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
と庄十郎は何事かを仄めかしつつ続けた。「その次はちょうど二時のことで、最初の鐘鳴器が鳴っていた時でございましたが、田郷さんを寝台に臥かしてから、医者に電話を掛けに行く途中でございました。もう一度この具足の側に来てみますと、その時は易介さんの妙な呼吸使いが聞えたのです。私はなんだか薄気味悪くなってきたので、すぐに拱廊を出て、刑事さんに電話の返事を伝えてから、戻りがけにまた、今度は思いきって掌に触れてみました。すると、わずか十分ほどの間になんとしたことでしょう。その手はまるで氷のようになっていて、呼吸もすっかり絶えておりました。私は仰天して逃げ出したのでございます」
検事も熊城も、もはや言葉を発する気力は失せたらしい。こうして庄十郎の陳述によって、さしも法医学の高塔が、無残な崩壊を演じてしまったばかりでない。円廊に開いている扉の閉鎖が、一時少し過ぎだとすると、法水の緩窒息説も根柢から覆されねばならなかった。易介の高熱を知った時刻一つでさえ、推定時間に疑惑を生むにもかかわらず、一時間という開きはとうてい致命的だった。のみならず、庄十郎の挙げた実証によって解釈すると、易介はわずか十分ばかりの間に、ある不可解な方法によって窒息させられ、なおその後に咽喉を切られたと見なければならない。