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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「うん、まさに小気味よい敗北さ。実は、僕も忸怩となっているところなんだよ」法水は何故か伏目になって、神経的な云い方をした。「先刻僕は、鍵の紛失した薬物室に犯人を秤るものがあると云った。また、易介の死因に現われた疑問を解こうとして、レッサーの著書に気がついたのだ。ところが、その結果、理智の秤量が反対になってしまって、かえってこっちの方が、犯人の設えた秤皿の上に載せられてしまったのだよ。しかし、こうやって嗤いの面を伏せておくところを見ると、案外あの著述にも、僕が考えたような本質的な記述はないのかもしれない。とにかく、易介の殺害も、最初から計画表の中に組まれてあったのだよ。どうして、あの死因に現われた矛盾が、偶然なもんか」
法水は、彼がレッサーの著述を目した理由を明らかにしなかったけれども、ともかくそこに至るまでの彼等の進路が、腑甲斐ないことに、犯人の神経繊維の上を歩いていたものであることは確かだった。のみならず、ここで明らかに、犯人が手袋を投げたということも、また、想像を絶しているその超人性も、この一つで十分裏書されたと云えよう。やがて、旧の書庫に戻ると、法水は未整理庫の出来事をあからさまには云わず、鎮子に訊ねた。