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あすなろう

あすなろう

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页

青空文庫

「現にこの身でぶっつかったことなんだ」

「ほんとだぜ、か」と文次は首をゆっくりと振った、「おめえはいやなやつだ」

三人組の客が勘定を命じ、そこへ四人伴れの客がはいって来た。その四人はもうひどく酔っていて、三人組が去ったあと、却って店の中はそうぞうしくなった。二人組の客はいちど口論を始めたが、喧嘩にはならず、互いに慰めたりなだめたりしながら、また仲よく飲み続けていた。

「くどくってね、へっへ」と政が話していた、「女をくどくなんてばかなこった、へたにくどいたりするから女は用心しちまうんだ、女をものにしたかったら躯を責めりゃあいい、いきなり抱きついて口を吸う、いやだって云ったらもういちどやる、二度、三度とやりゃあ女は黙っちまうもんだ」

「子供を騙すようなもんか」

「但しみんながみんなじゃあねえぜ、中にゃあ田之助が裸で抱きついたって、石みてえにびくともしねえ女がある、そいつを見分ける眼がねえとしくじるんだ」

「おめえはしくじらねえんだな」

「そんなのには手を出さねえからな」

「情にほだされるこたあねえか」

「初めから夫婦にならねえと断わるくれえだぜ」と云って政は可笑しそうに含み笑いをし、文次のほうへ半身を近よせた、「――面白えんだ、あにい、女をものにしていよいよそうなるだろう、するとな」