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いさましいはなし
いさましい話
山本 周五郎
「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页
六
「私はかなり辛抱づよいほうですから」
玄一郎はこう云って微笑した。
六
三月に藩主が帰国した。伊賀守敦信は、先代正敦の二男で、長男が夭折したため家督になおったのであるが、二男らしい濶達な気性と、二十八歳という若さと藩主になってようやく五年、そろそろなにか始めそうなけぶりとで、保守的な国許の人々から警戒の眼で見られていた。
帰国するとまもなく敦信はひそかに和泉図書助を呼んでむすめ松尾を笈川玄一郎にめあわせるようにと命じた。
「笈川には将来やらせたい仕事があるので、和泉という姻籍の背景が欲しいのだ」
敦信はぶちまけた調子でこう云った。図書助はみごとにたぐり込まれた。なにをするかわからないこの若い藩主が自分の存在を高く評価していること、また笈川の将来がかなり大きく保証されているらしいことなど、老人にはまず抵抗しがたい誘惑であった。
「御意の旨いちおう親族に申し聞かせましたうえ、早速お答えに参上つかまつります」
土地の習慣で、親族とは妻女に相談する意味である。これには一つの由緒がある、この藩の五代まえの先祖が、徳川家康に岡崎城代を命ぜられたとき、「妻と相談したうえでお返辞をする」