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おみつかんざし

お美津簪

山本 周五郎

「キング増刊号」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,158 字 · 26 页

青空文庫

幾らお紋が阿婆擦れでも、好きでこんな事をするものかね、みんな正さんと楽しくやって行きたいためじゃないか。それあ……正さんをこんなにしたのはあたしの罪かも知れない、けれどあたしが正さんに命までと打込んでいたのは嘘じゃなかったわよ」

「――――」

「正さんだって幾らかあたしを好いてくれたからこそ、ここまで一緒に墜ちて来たんでしょう?――日蔭の生計しか知らないお紋と、世間知らずの正さんがひとつになれば、結局こんな穴より他に生きる道は有りゃあしない、あたしはねえ正さん、おまえとなら地獄の底へでも行く覚悟だよ」

お紋は自分の言葉に酔いながら、そっと正吉の肩へ手をかけた。――正吉は死んだ者のように身動きもしなかった。

「ねえ、分っておくれだろう」

「――――」

「分っておくれなら機嫌を直そうよ、そして今夜の仕事が旨くいったら、正月は二人でのんびり湯治にでも行くんだ、そうすれば病気もきっと良くなるからね」

お紋は説き伏せたつもりで、静かに正吉の肩を愛撫してから立上った。

「さあ機嫌を直して、そろそろ出掛けるとしよう、ねえ正さん」

「――――」

「あたし着換えて来るわね」

お紋は次の間へ立って行った。