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このにぎりめし
この握りめし
岸田 国士
「日光 第三巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,649 字 · 27 页
酒をつけて出す家がたまにあると、彼は笑いながら、警官に酒を飲ませると、きつとその家には祟りがあるからやめなさいと言う。なぜかと訊くとそういう家を悪魔が見込んでこつそり忍び寄るからだと答えるのである。
しかし、どこへ行つても、警官の制服をそう軽々しく見るものもないかわり、誰と口を利いても、妙に警戒めいた調子がみえて、彼は淋しかつた。頼られるにしろ、突つ放されるにしろ、どこかもつと、腹を割つたところがみせてほしかつた。なかには酒を浴びると厭味の一と言ぐらい言うすれつからしもいるにはいる。それも実は、顔色をうかがいながらである。こつちの眼附次第で、どうにでもなるのである。古参の同僚は、なにかにつけて、最近の仕事のしにくさをこぼすのだが、それというのも民主々義のご時勢で、警察の威光が昔ほど物を言わぬからだときめてかゝつている。彼の考えでは、そういうところもなくはないが、むしろ、逆に、警察官はもつともつと民衆の一人になりきる方が仕事がし易くなるのではないか、ということである。
しかし、それこそ、生やさしいことではないということもよくわかる。なぜなら、公人としての役目を果すには一個人の利害を無視し、私の感情をまつたく殺さねばならぬことがあるから、それをよく理解する世間を向うに廻してでなくては、公けの務めを民衆の一人