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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

「へえ」と大六は頭を垂れた。

茂次は立ちあがって、「仕事にかかるぜ」と職人たちのほうへどなった。

大六はくろといっしょに江戸へゆき、五日めに戻って来て、茂次に仔細を告げた。

火事の起こったのは九月七日の午前十時。湯島天神の裏門前にある、牡丹長屋から出火し、北西の風で三組町から神田明神へ延焼した。そのころから風勢が強くなり、そのまま神田をひとなめにして日本橋まで焼け、一方は東に延びて、堀江町、小網町、葺屋町の両芝居から、馬喰町、浜町、そこで飛火をして深川の熊井町、相川町、八幡宮の一の鳥居を焼き、仲町辺まで一帯を灰にした。季節はずれなので大きくしてしまったらしい、死傷者の数もかなり多いようである。そう語ってきて、大六はちょっと言葉を切った。次に云いだすことで、どう云おうかと迷ったのであろう、茂次はすぐにそれと察した。

「こっちから訊くから、訊いたことだけ答えてくれ」と茂次は云った、「二人は火で死んだのか」

大六は「そうです」と答えた。

「いっしょにか」と茂次が訊いた、「それともべつべつか」

「いっしょだったそうです、おかみさんが棟梁を抱くような恰好で」

「わかった、もう云うな」