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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
しかし他領のことだから、この藩の武家でゆくものはごく稀である。雑多な客が絶えず出入りすること、家中の者にみつかる危険の少ないこと。そういう点で、高雄はそこを選んだのであった。
おいちが立ってから三日ほどして、高雄はその報告をしに吉良へいった。
「療養で湯治にやったそうだね、聞いたよ」
節太郎はきげんよくそう云った。そして慰さめるつもりだろう、すぐに酒の支度をさせて、盃を交わしながら高雄の話しを聞いた。……はじめはきげんがよかったけれども、聞いているうちに吉良はむずかしい顔になりしまいには怒ったように高雄を睨んだ。
「では森もいっしょに猿ヶ谷へいったのか」
「――彼には今おいちが必要なんだ」
「では紀平には必要ではないというのか」
「――こんどの事は誰が悪いのでもない」
高雄は眼を伏せて低い声で云った。
「――ただ不運なめぐりあわせだったんだ、誰にも責任はないし、誰を不幸にもしたくない、おれの考えたことはそれだけだ」
吉良はそっぽを向いた。いかにも不服そうである、そしてそっぽを向いたまま、どういうふうに解決するつもりかときいた。
「二人は猿ヶ谷に一年いて貰う」高雄はこう答えた、「――そのあいだに生活の手蔓がみつかるだろう、みつからないばあいにも、一年経ったらおれはおいちが病死したという届けをする、……二人は二人の生活を