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ひやめしものがたり
ひやめし物語
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,861 字 · 31 页
「それが本当なら大いに祝杯の値うちはあるが、半分というのはどういうんだ」
「そこが問題なんですが、まず四郎を少し酔わせましょう」
大四郎は立ってゆきたかった。彼には三兄の話が片町通りの事を指すので、みそめた立場を反対にしたのは厭がらせだと思えたし、そのあとには、独特の揶揄が飛ぶだろうと考えられたから。然しむろん立てはしなかった、そのうえ又三郎の話は彼の臆測とはかなり違ったものだったのである。……相手はやっぱり片町通りで会った娘だった、そして途上での幾たびかの邂逅は、娘のほうで時刻と場所を計ったのだという。
「今どき武家にそんな娘がいるのかね」
「まだ先があるんですよ」又三郎は興に乗った調子で続けた、「そうして刻を計っては道で会っているうちに、ふいと四郎が来なくなった、時刻を変えてみたり、道筋を違えてみたりした、然しやっぱりゆき会わない、そこで娘は古風にも病気になってしまったんです」
「三郎の話は、この辺から眉へ唾をつけて聞かなくちゃあいけないんだ」
「まあお聞きなさい、病気といってもむろん寝たり起きたりで、蒼い顔をして部屋にこもって、涙ぐんだ眼を伏せては千代紙で鶴を折っている、折った鶴を糸でずらっと吊って、それを見上げながら溜息をつく、いちにち夜具をかぶって忍び泣いていたと思うと、物も喰べずにまた鶴を折る、そんな