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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

いつもちょこちょこと動きまわっているようすも、小さな目鼻だちも、そのきいきい声やちょび髭まで、鼠そっくりにみえた。「せやさかい」というのが口ぐせであり、江戸弁は荒っぽいから、しょうばいには上方訛りに限る、というのがその主張であった。

「そないに勘定や勘定やと云われてもな」といつか版木屋が勘定取りに来たときに、彼がきいきい声で云うのを房二郎は聞いた、「――こっちゃもしょうばいやよってに、あんじょう儲からんことには払えやしまへんがな」

記事部屋は北向きで、うす暗く、湿っぽく、九月にはいるともう隙間風が寒かった。瓦版はたいてい一枚摺りだが、ときに三枚綴じ五枚綴じのこともあった。綴じの多いときは小説ふうの拵え記事で、赤絵を使った、わ印のような内容のものが多かった。――売り子は香具師の若い者で、常連になっているのが七人、一枚売れば幾らという歩合制であるが、記事のたねを持って来れば、相当な手間賃になるようで、かれらのほかにも、火事とか落雷とか、心中、傷害などの早記事を持ち込む者が幾人かいた。

房二郎は小舟町に部屋を借りた。木内桜谷が捜してくれたもので、女一人の後家ぐらしであるが、仕立て物を教えていて、二十人ちかい娘たちが毎日かよって来た。