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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

と裏の八帖からおそでの叫び声と、頬でも叩くような音が聞えた、「あたいの財布からくすねてった二分もあのくそあまにやったんだろ、すぐに返せ、いますぐにここで返しやがれ、このとんまの**野郎のひょっとこのおたんこなすめ」

また頬でも叩くような音と、けんめいになだめようとする文華の、低いやさしげな声が聞えた。

「さあ、ここいらでさわりを入れるかな」木内桜谷は休みなく筆を動かしながら云った、「――うんすん歌留多だ、うんすん歌留多だ」

彼はよく書いた。一升徳利を机の脇に置いて、冷やのまま湯呑に注ぎ、それを啜りながら、朝から夕方まで、独り言を呟いたり、にやにや笑ったりしながら、書きに書きまくった。文華堂でいう早記事、いまでいう速報というようなものはもちろん、芝居の評判記とか、役者と婦人たちとの情事、いうまでもなくでたらめな拵え記事だし、内容は思いきって下品なものであり、表現はそのまま猥本といっていいものであった。

「またうんすん歌留多かい」ときどき彫り師の源さんが云った、「こう型がきまっちゃあ面白くも可笑しくもねえぜ、木内さんもたまにゃあ変った女と寝てみるんだな」