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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

「あんまり飲んじゃだめだって云ったのに、こんなに飲んでばかりいるといまに躯をこわしちゃうわよ」

「痛いな」と房二郎は云った、「けれども、男にはね、死ぬほうがよっぽど楽だっていうときがあるんだよ」

「女にはそんなときがないとでもお思いですか」

「痛いな」とまた房二郎は云った、「私は世間を覗いたばかりで、自分のことだってよくわからないんだから」と云って彼はてれたような顔つきになった、「――ゆうべはよっぽどおそかったんですか」

「覚えていらっしゃらないの」

「売り子の段平と久兵衛がいっしょだったんで、知らないところを引廻されたものだから、いつどうして帰ったか覚えがないんだ」

おるいの顔に嬌かしい微笑がうかんだ、「売り子っていうのはやくざなかまの人なんでしょ」とおるいが云った、「まさか悪いところなどへいったんじゃないでしょうね」

「そんなことはないさ」房二郎は顔をそむけた、「尤も、酔っていたから、どんなところを廻ったかよくはわからないがね」

「女がいたんじゃないの」とおるいはさぐるような口ぶりできいた、「女のひとと浮気をしたんでしょ」

「顔を洗おう」と云って彼は起きあがった、「そう休んでばかりもいられないからな」