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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

「それを売れるように書くのが、木内さんの腕じゃあないのかな」と木原はにやにやしながら云った、「この夏、新吉原の女郎の心中はよく売れたそうじゃありませんか、二人とも死んだことになってるが、女郎のほうはまだぴんぴんしているし、あの瓦版のおかげで、たいそうはやってるそうですからね」

「よしてくれ」と木内桜谷が云った、「そんなことは聞きたくもねえや」

「筆の力ですよ」木原は軽薄に笑った、「木内さんが書けば、どんなに屑だねでも売れること間違いなしさ、しっかり頼みますよ」

そしてへらへら笑いながら、木原桜水は出ていった。

「たいした野郎だ」と木内は書きながら云った、「いいたねは金になるほうへ持ってゆき、安い屑だねはこっちへ持って来やあがる、それで実際に書くおれなんぞより、ずっと多くちょび髭から召し上げるんだからな、――なにが可笑しいんだ」

房二郎は手を振って、「いや違うんだ、その話じゃあないんだ」と云った、「いま桜水が神田鍛冶町と云ったとき、初めておまえさんに会ったときのことを思いだしたんだ」

「沢茂のことかい」

「刺身のかなっけのことじゃあねえ」と房二郎がまた忍び笑いをしながら云った、「あのときおれたちの脇に二人の客がいた、その一人がさ、子供が寝小便をしたので、こらしめのためにその蒲団を背負わせて、町内を三遍廻って来いと出し